消失事件

 それは大学1年生、入りたての頃だった。陸上部に入りたてだった私は、初めての対校戦を終えた安堵感と他大学とのこれから始まる交流に心躍っていた。

 場所は平和台陸上競技場側の舞鶴公園。総数で100人は軽く越えていた。世に言うレセプションの始まりである。全員20歳以上の大学生達が酒を飲む会が野外で行われたのであった。

 「T、お前これをついで回ってこい。」
先輩から渡された焼酎の一升瓶を大事に抱えて、私は言われた通りについで回ろうとした。

 今でも純粋だが、今にも増して純粋だったそのころは、「返り討ち」「駆けつけ三杯」「三倍返し」といった言葉を知らなかった。それぞれの語句についての意味は各自で広辞苑でも引いていただきたい。

 他大学の先輩や同じ大学の先輩に自己紹介しては、つぐ。ということを繰り返していた。

 しかし、何の害もないはずのその行為も上に書いた3つのキーワードによって、徐々に自分自身のヒットポイントが減らされていることに、これまた、徐々に気づいていった。

 一升瓶の残量は、私自身のヒットポイントを正確に暗示していた。

 レセプションが終わったとき、一人木の根本でせっせとお好み焼きを作っている私がいた。

 薄れゆく記憶の中で、
 「だれだ、こいつ?」
 「Tです。かなりきてるみたいだから送ってやった方がいいんじゃないですか」
 「そうだな、とりあえず下まで運ぼう」
 と言った会話に対して弱々しい声で「す み ま せ ん」を繰り返す私がいた。

 そして私は一時の記憶のいらない眠りの中へと落ちていったのだった。

 大学1年の初夏、どう見ても私が20歳の時の話である。