名古屋大学不合格事件

 1993年冬。前期日程試験の2日前、私は名古屋に降り立った。途中の関ヶ原付近では吹雪だった。名古屋の空はどんよりと曇っていた。「遂にやって来た。」そんな気がした。

 駅からそう遠くないホテルが今回の宿舎だった。1人で名古屋に来るのははじめってだったが不安はなかった。そこには、名古屋大学の過去問10年分をやり遂げた。大学への数学もしっかりやった。英語の速読はSIMの教材で鍛えた。などの自分への「自信」が見え隠れしていた。しかしこれが後で「油断」だったと気づくとも知らずに

 試験の前日私はリラックスしまくっていた。勉強に手が着かず、窓からボーと道行く人を眺めていた。そうしているうちに名古屋大学を無性に見たくなり、予定より早く試験会場の下見へと向かった。

 地下鉄を降りて、大学までのだらだらとした上り坂の途中のコンビニで昼飯を買った。大学に入ったら陸上部に入部すると決めていた私は、その足で名古屋大学のグランドに向かった。そこで「あー、もうすぐここで走るんだろうなー」と勝手に思いながら、1人ぽつんとグランドで飯を食ったのだった。その後、試験会場がわからずに2時間ぐらい学内をうろついた以外は特になにもなかった。

 試験当日、今日は学内をうろつくこともなく試験会場までたどり着いた。この時もなぜか心は落ち着いていた。そして試験。

 落ち着いていたのはここまでだった。初めの「物理・化学」で予想外の問題に戸惑いうろたえてしまった。とにかく解けなかった。その他の教科がどんな出来だったかはもう忘れてしまったが、出だしの失敗を最後まで引きずってしまったような気がする。

 全ての試験が終わりみんなが足早に立ち去るのを見届けた後、私は最後に教室を出た。後期試験は絶対に通らないと考えていた私の頭の中は、早くも北九州予備校山口校のことでいっぱいだった。

 帰りの列車の時間まではかなりあったので、名古屋駅の地下街をぶらついていた。そして今日の名古屋での事件をこれからの戒めにしようとCDを1枚だけ買った。おみやげは買わなかった。

 ブルートレインあさかぜは夜の闇の中をただひたすら西へ西へと向かっていた。あのとき、窓の外に見えたぼんやりした明かりは、ボーとこれからのことを考えている私に重なって見えたことを今でも忘れない。

 その後、後期試験で奇跡的に九大に合格できた。今でも名古屋で買ったCDを聴くと前期試験のことを思い出す。