エンドレスじゃんけん事件
小学校では年に1回、学習発表会というイベントがあった。これは授業参観が普段の授業を見せるのに対して、保護者に見せるために、休日に保護者を呼んで、各クラス毎にいくつかのテーマで発表会をするというものであり、6年生の時は、自分たちのやりたいテーマを友達同士のグループで何をやってもよいと担任のT先生から言われていた。
よくあるのが音楽で習った笛の発表とか、女の子なら家庭科の料理の作り方とか、体育の組体操みたいなのとか、授業に関係あることなら何でもよかった。その中で必ず行われていたのが国語の教科書を題材とした国語劇であり、特にしたいことがない人や仲間で集まって何かやるということが苦手な人がそのまま国語劇に流れるパターンも多かった。
その年、僕たちは5人ぐらいで簡易熱気球(メタノールを脱脂綿に含ませて、ビニール袋の下に針金で吊るし、熱気球の原理で宙に浮かべるというもの)をT先生が体育館で全校生徒の前で披露していたこともあり、是非ともこれをやりたいと思っていた。
しかし5人でこれをしようとした時、国語劇に参加する人数が数名不足していたため、T先生は「熱気球は2人でいい。残りの3人は国語劇にしなさい。決まらないならじゃんけんで負けた人3人が国語劇にしなさい。」と言われた。正直5人のだれも国語劇をしたくなかった。なんで国語劇やらんといかんのだろうと思った。だからその場で5人で話してじゃんけんで勝負がつかないようにおなじ順番で(たしかグーチョキパーの順など)延々とあいこが続くようしよう。と決めた。そしてクラス会中教室の後ろでじゃんけんをはじめた。
じゃんけんポン、じゃんけんポン、じゃんけんポン、じゃんけんポン・・・。当然だが勝負はつかない。延々とエンドレスにじゃんけんが続く。するとT先生が怒った。「おまえらわざとやってるな。全員廊下に立っとけっ!」
5人はクラス会が終わるまで廊下に立っていた。私はこの時、悪いことをしたというより何で立たされるのだろうという気持ちの方が強かった。さっき好きなことでいいって言ったじゃんって思っていた。
その後、談合なしでじゃんけんをして私は勝ち、熱気球をすることにはなった。しかし何か複雑な気持ちが残ったように覚えている。
子供は自分で決められるように与えられても、先生の一言でやり方はすぐに変わる。先生がきまりをつくれるということを、子供心のうちに感じた日だった。
後に大学で教員免許を取る機会が与えられていたが、私は意図的に法律Aの講義を選択せず、先生にはなれないようにした。先生の一言が子供の心に残るということを思い出したからかもしれない。